"Getting Things Done"をはじめとする2000年代のライフハックを一挙に集めた、シンプル&ストレスフリーの仕事術ムック。
目次
書誌情報
書名:Life Hacks PRESS デジタル世代の「カイゼン」術
著者:田口元ほか
ジャンル:ライフハック
図書分類:336 : 経営管理
GTDの入門書
本書はさまざまなライフハックを紹介するためのムックなのだが、総力特集である「GTD」テクニックが手軽に活字で読める稀書となっている。
GTDとはデヴィッド・アレン著"Getting Things Done(「仕事を成し遂げる技術」)"の頭文字で、いわゆる「タスク管理術」の一方法である。2000年代のライフハック流行とともに一大ブームとなった。
GTDの思想は至極単純で、「脳はCPUであってストレージ(記憶装置)ではない。その脳を最大効率で働かせるには脳内にあるすべてのタスクを一度アウトプットして可視化する」というものだ。そしてその方法論として次の3つのステップがある。
- 信頼できるシステムを構築し、そこに「あなたの注意を引くことすべて」を保管する
- 次の物理的なアクションを定義する
- 定期的にレビューする
最初に「信頼できるシステムを構築する」といわれてギョッとするかもしれないが何の心配もいらない。ただのA4用紙とボールペンだけあればいい。要は「ウラ紙みたいなのに適当に書き付けてしまったあげくそれを失くした」みたいなことが無ければよいのだ。好きな人はデジタルガジェットで入力してもいい。
「次の物理的なアクションを定義する」というのもおどろおどろしい表現だが、これも「○○さんにメールをする」「×月×日に買い出しに行く」のようなものを指す。
最後の「定期的にレビューする」は言わずもがな、タスク管理には定期的な見直しが必須だ。
つまりGTDはごく真っ当なタスク管理技術なのだが、これがおそろしいほどよく効く。では実際にどうすればいいのか、具体的な方法を紹介しよう。
GTDを実際に試してみる
GTDは5つのフェイズに分けられる。
- Collecting 収集
- Processing 処理
- Organizing 整理
- Reviewing 検証
- Doing 実行
フェイズ1:Collecting 収集
たっぷりのA4無地用紙とよく書けるボールペン(黒色でかまわない)を用意する。お気に入りのカフェか、どこか静かに集中できる作業空間を見つけて、筆記用具を広げよう。
そうしたら目の前の紙に「いま頭の中にある気になることすべて」を箇条書きで書き出す。プライベートでも仕事でもなんでも思いついたことなら全部だ。「あなたの注意を引くことすべて」がそこに書き出されなければならない。
箇条書きは2段でも3段でもいいし、走り書きで字が汚くてもかまわない。タスクの重要度や順番もバラバラでいい。「アフリカに行ってみたい」の下に「爪を切る」でも全然問題ない。途中でカテゴリー分類をしてはいけない。ブレイン・ストーミングと同じで、アウトプット中にevaluate(評価)を入れると思考のストリームが止まってしまうからだ。ひたすら書き出す。
最初の15分ほどでいったん全部書き出した気になるが、それは意識の表層部分にある、いつでも思い出せるタスクだけだ。もうしばらく粘ると「そういえばこれも…」とさらにタスクが追加されるはずだ。A4用紙なら数枚は書ける量のタスクをふつう人間は抱えている。それを全部書き出さなければならない。時間は1時間をこえるはずだ。
2時間ほどかけて頭の中にフワフワ浮いていた未処理のタスクがすべて眼前の紙数枚(ひとによっては十数枚)に「ダウンロード」されると、これまでにないほどの爽快感を感じることができる。脳が記憶保持の苦役から解放されたからだ。この状態は素晴らしく気持ちがいいので、ぜひじっくりと味わってほしい。
フェイズ2:Processing 処理
次に行うのはタスクの分類だ。これはフローチャート式に順に処理していく。大事なのは「書き出したタスクを上から順に処理する」ことで、決してあるタスクを飛ばしたり、既に分類したタスクをもう一度処理しなおしたりしてはならない。ひとつの例外もなく上から順に処理していく。
「そんなこといっても、すぐにできないからこうしてタスクとして残っているんだよ」と漏らすかもしれないが、安心して欲しい。ここでいう処理とは「これはいまできそう」「これはいまできなさそう」に分けるというものだ。もう少し詳しくみていこう。
フェイズ2-1. それは削除するものか
✓ YES → ゴミ箱行き。このタスクは思いついたけれど、とくに何かやるものではなかったようだ。e.g. 「○○本を買う…あ、そういえばもう買ってたっけ」横線で消してしまおう。
✗ NO → フェイズ2-2へ
フェイズ2-2. それは保管するものか
✓ YES → 「資料リスト」へ。このタスクは何かアクションを起こすものではなく、資料価値が高かったから頭に残ったものだ。e.g.「6歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない by アインシュタイン」丁寧な字で転記して保管しておこう。
✗ NO → フェイズ2-3へ
フェイズ2-3. それは留保するものか
✓ YES → 「いつかやるリスト」へ。このタスクはいまできるものではなく、漠然とした予定だったり将来の夢だったりするものだ。e.g.「いつかヨーロッパ旅行をする」いつかやるリストはなるべく楽しい予定でいっぱいにするといい。
✗ NO → フェイズ2-4へ
フェイズ2-4. それは複数の手順が必要なものか
✓ YES → 「プロジェクトリスト」へ。このタスクはいまやるべきものだが、すぐに手をつけるには大きすぎるようだ。e.g.「部屋の掃除と模様替えをする」「来期の予算を組む」プロジェクトリストはこのあと必ず再検討する。これはやらなければならないリストだ。
✗ NO → フェイズ2-5へ
フェイズ2-5. それは自分がやるべきものか
✓ YES → 「連絡待ちリスト」へ。このタスクは誰かに任せるのが最善のようだ。いま相手に連絡して、その報告を待つようにしよう。e.g.「週末の飲み会の予約はAさんのほうが詳しそうだからお願いしよう」もしいま連絡できないのであれば次のフェイズへ。
✗ NO → フェイズ2-6へ
フェイズ2-6. それは特定の日付にやるべきものか
✓ YES → 「カレンダー」へ。このタスクは特定の日にやるのが最善のようだ。カレンダーへ転記してリマインダーをセットしよう。e.g.「このあと15時になったら飲み会の件を連絡しよう」「今週の土曜の特売日にタマゴを買おう」とくに特定の日付でやる必要のないタスクなら、次のフェイズに進もう。
✗ NO → フェイズ2-7へ
フェイズ2-7. それは2分以内にできるものか
✓ YES → 2分以内にできるようであればいまタスク処理してしまおう。e.g.「Bさんにミーティング時間変更の連絡をいれておこう」「爪切りが引き出しにあるからいま切ろう」
✗ NO → 「次にやる物理的アクションリスト」へ。2分でできないようなら、それを具体的なアクションへ落とし込もう。e.g.「ブログ記事を書く→PCの電源を入れて見出しを書き出す」「16GiBのUSBメモリを買う→駅前の家電量販店へ行く」ここで重要なのは、タスクを漠然とした様子から「物理的な」アクションに書き換えることだ。「本を買う」ではなく「本屋へ行く」「デザインを考える」ではなく「カフェでノートを広げる」など。
フェイズ3:Organizing 整理
こうしてすべてのタスクを上から順に処理したあとの手元には「資料」「いつかやる」「プロジェクト」「連絡待ち」「カレンダー」「次にやる物理的アクション」の6つのリストが残ったはずだ。
これらのいくつかは別の形でまとめることもできる。たとえば「いつかやるリスト」などはマインドマップにかきあげるのはいい方法だ。「次にやる物理的アクションリスト」をToDoアプリケーションに落とし込んでもいいが、たいした量ではないはずなので紙ベースで持っててもかまわないだろう。リストを清書して色別クリアファイルに収めるのも楽しい。
GTDは情報空間だけでなく、実際の物理空間、たとえば部屋の掃除にも応用できるので、リストのかわりに段ボールを用意して「捨てるものボックス」「残すものボックス」「いまはまだ片付けないボックス」などに振り分けることで断捨離もできる。箱に整理したあとはそれを部屋のあるべきところへ戻して整頓する。
フェイズ4:Reviewing 検討
ここから先はこの整理された状態を維持するためのステップだ。GTDでは最低週1回のreview、つまりリストの見直しを求めている。
まずはカレンダーを見て、今日に予定されていたタスクがないか確認する。あるいは昨日までに消化し切れなかったタスクがあるかもしれない。スケジュールを組み直そう。
それから「プロジェクトリスト」と「いつかやるリスト」。そのときの気分でここに入れたタスクは、また別の違った日に眺めると細かく分けられたり行動に移せるものがあるかもしれない。たとえばプロジェクトにあった「部屋の掃除と模様替え」は「掃除」と「模様替え」に分割することで手をつけやすくなるだろう。「掃除」を「まず机の上を片付ける」に換え、さらに物理的アクションとして「スーパーで小さな段ボール箱を3つもらう」にまで落とし込めば、精神的なハードルはぐっとさがる。
リストの振り返りと再検討はどんな整理術でも必要不可欠なものだ。毎日1回、毎週1回、毎月1回など日と時間を決めて実行しよう。
フェイズ5:Doing 実行
タスクの整理・分類が終わったらあとは粛々とアクションを実行するのみだ。いまできるタスクは全部アクションを起こしやすいレベルにまで落とし込んであるから、そのうちどれから手をつけるかだけが問題だ。
GTDでは実行するアクションの判断基準を次の4つにまとめている。
- 状況
- 時間
- エネルギー
- 重要性
状況
そのアクションを実行するのに適当な状況にあるかどうか。たとえば「プログラムのソースコードを書く」なら手元にスマホだけではうまくいかない。きちんとしたPCと高速インターネット環境のある場所で実行すべきだ。
時間
そのアクションを実行するのに適当な時間が確保できるかどうか。どう見積もっても1時間はかかるタスクに20分の隙間時間では処理しきれない。スケジュールを調整していま1時間を用意するか、別の時間帯にしよう。
エネルギー
そのアクションを実行するのに適当な(精神的)エネルギーがあるかどうか。8時間フルタイムでデスクワークしたあとに1億円の商談の予定を組むのはあまりにも分が悪い。エネルギーを多く必要とするタスクはしかるべきスケジュールを組んでおくべきだ。
重要性
そのアクションを実行する重要性は高いのか低いのか。他の3つがあまり変わらないようならもちろん重要性のあるタスクから実行しよう。
GTDは簡単かつ高効率のライフハック
以上がGTDのすべての手順だ。さほど難しくもなくいまからでも実践できそうな感じがある。実際、やってみるのは非常に簡単だ。全部でなくてもフェイズ1の収集(頭の中のすべてを紙に書き出す)だけでもやるべき価値がある。
GTD発案者のデヴィッド・アレンは「自分の好きなツールをつかって自由に実践してほしい」と言っている。紙よりもキーボード入力が好みであればそうすればいいし、音声入力でベッドに横になりながらもアリかもしれない。
ムックには他のライフハックも
本書はGTDテクニックだけでなく、他にいくつかのライフハックも掲載している。
特集2の「Google全サービス解説」は2006年のものであるため、現在ではあまり見ないサービスにも触れているがそれでもいくつかのコラム(たとえばgoogle検索の引数など)は参考になる。
特集3の「プレゼンが簡単にうまくなる」は非常に読みやすくかつ実用性の高い記事なので、プレゼンテーション技術を必要とする立場の人ならとても参考になるだろう。