脳科学者である苫米地英人による、知性そのものを向上させると謳うノウハウ本。
目次
書誌情報
書名：頭の回転が50倍速くなる脳の作り方
著者：苫米地英人
ジャンル：脳科学
図書分類：498.39 : 衛生学．公衆衛生．予防医学
キャッチーなタイトルと例の人
苫米地英人である。脳科学界隈では有名なあの人である。ご存じない方に、著者のプロフィールを本書から引用しよう。
1959年東京都生まれ。脳機能学者・計算言語学者。イェール大学認知科学研究所、同人工知能研究所、カーネギーメロン大学計算機科学部研究員、同哲学科研究員、徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員等歴任。中国南開大学客座教授、全日本気功師会理事。カーネギーメロン大学博士（Ph.D.）。現在、複数の政府の公安顧問をつとめる。
頭の回転が50倍速くなる脳の作り方
どうだろうか。これを見て「わあ、すごいひとなんですね」と素直に感嘆した方は、もう少し注意深く人生を歩んだ方がいい。どういうことか。肩書きにズラズラと役職や過去の栄光を並べる人間は、その言説をやや割り引いて評価した方がいいからだ。
もう少しプロフィールを引用してみよう。
ドクター苫米地ワークスからは、ドコモとauのケータイサイト『着信★うた』『魔法のメロらんど』で『奇跡の着うた』を配信中。『奇跡の着うた』は、特殊な音源刺激を脳の各位に与え女性のバストアップや痩身、IQ向上などの効果を埋め込んだ着うたが全世界で話題を呼び、ディスカバリーチョン寝るでも特集され全世界で放映される！
頭の回転が50倍速くなる脳の作り方
「女性がバストアップする音源を着うたで配信する」のが自身の来歴にプラスだと思っている脳科学者である。私にはにわかには信じられない。
話は英語脳からはじまる
プロフィールではなくて本書の内容で評価しよう。著者は英語ができない日本人向けの英語講師なので、まず英語ができる方法論から入る。
ただし、ここで問題が出てきます。一般的に子供が大人とまともに話せるようになるのは、最低でも七〜八歳です。ということは、この方法だけでは七〜八年やり続けなければいけないということになります。
頭の回転が50倍速くなる脳の作り方
しかしそれでは時間がかかりすぎるため著者はここで「抽象度を上げる」ことでIQ自体が向上し、より速く言語学習が進むと主張する。
ちなみにここで紹介されてる英語脳の作り方は「英語ドラマを一日12時間、それを最低3週間ぶっとおしで視聴する」というものである。これでも英語脳を完成させるには七〜八年、アメリカンドラマを視聴し続けなければならないらしい。私にはにわかには信じられない。
脳の抽象度上げる3つのステップ
著者は抽象度を上げ「新しい脳」をつくるための状態として、次の3つのステップを紹介する。
- リラックス状態をつくる
- コンセントレーション（集中）状態をつくる
- 超並列脳をつくる
リラックスにはどんな方法でもいいが、著者は「逆腹式呼吸」を勧めている。腹式呼吸の逆、つまり吸気で腹を凹まし呼気で腹を膨らませる。
コンセントレーションには一点集中法、一点を凝視する方法だ。
超並列脳状態にするには、一点集中法のまま目を閉じて視線を上部に向ける（ラピッドアイロール）を紹介している。
そしてここが一番大事なのだが、この目を閉じた状態で次に何をすればいいのかはまったく書かれていない。速読をするらしいのだが、目を閉じたままどうやって本を読むのかについては解説がない。私にはにわかには信じられない。
炸裂するトマベチ節
このあといくつものスーパーマルチ脳力開発のテクニックが紹介されていくのだが、苫米地英人特有のあの節回しが続く。つまり「なんだかすごい科学用語がたくさん出てくるが、その応用例がしょぼい」である。共感覚やトリガー／アンカーなど、異常心理学分野として面白いタームが出てくるだけに実におしい。実践的なトレーニングとしてはサイゼリヤのメニューを1秒で決めるなどがある。これで脳の抽象度が上がるらしい。私にはにわかには信じられない。
最後にある特別編だけは少し毛の色の変わった、実のある方法論が登場するが、NLPからの借り物であるのは明白だ。それまでの苫米地氏オリジナルのトレーニングと違って体系立っていて有機的につながっている（NLPのタイムライン・テクニックだから当然だ）。
と学会としては非常に有益な本
本書は脳開発の実用書として読むより、トンデモ本であると割り切って楽しむべきたぐいの書籍だ。幸いなことに著者はわりと多筆なので類書には困らない。夢のある脳開発ファンタジーとしてぜひ愛読してほしい。