書評と知的生産

フォトリーディングは潜在意識に働きかける速読術

視覚野に画像として取り込むことで無意識に情報を処理させ、その後に潜在意識に問いかけることで必要な情報の箇所を取り出すという方法論をとった速読本。

書誌情報

書名:あなたもいままでの10倍速く本が読める 常識を覆す速読術「フォトリーディング」

著者:ポール・R・シーリィ

ジャンル:速読

図書分類:019.13 : 読書.読書法

数ある日本の速読術スタイル

日本の速読術にはいくつか流派が存在する。

  1. 眼球運動を訓練して物理的に速度を上げる方法論(レベルを上げて物理で殴れ流)
  2. 斜め読みして重要箇所だけを熟読する方法論(全部読まず必要なところだけ読め流)
  3. フラッシュカード式に次々と文章を表示し意識しないですべてを読む方法論(超能力開発だ流)
  4. 一回では理解度の薄い速読を何回も繰り返すことで全体として読破する方法論(質より量だ流)

我々が興味をもつとしたらもちろん3つ目の「フラッシュカード潜在意識方式」だ。理由は一番かっこいいからだ、間違いない。

フォトリーディングは潜在意識系とその他の速読術の組み合わせである

実は本書の速読スタイルは、上記のうち2.3.4を組み合わせた「複合型」に分類される。

メインとなるのはパラパラとページをめくる「フォトリーディング」で、これはフラッシュカード式に分類されるが、その前に「プレビュー」と称して一度下読みをするし、フォトリーディング後に今度は「ポストビュー」としてさらにもう一度読む。つまり都合3回本全体を読んでいる。これは回数行使型の速読スタイルだ。さらに「アクティベーション」といって「自分に必要だと思われる箇所はどこだ?」と潜在意識に問いかけてから「高速リーディング」をすることで、必要な情報をより詳細にアクセスすることができると謳うが、要するにこれは流し読みから必要な部分をピックアップしているにすぎない。

つまり本書フォトリーディングは夢のない要約をすると「3回流し読みをするがそのうち1回はフラッシュカード式で、流し読みが終わったあとに気になる箇所を見つけて熟読するタイプの速読」ということになる。

それでも魅力的で実用的なフォトリーディング

それではフォトリーディングとはただの流し読みにキャッチーなコピーをつけたエセ速読にすぎないのか、というとそうでもない。フォトリーディングはたしかに技術的に優れた速読術だ。

読書量の多いタイプの人間なら、さらっと目にした記事や小ネタを必要な時に思い出したり、自信はないが口から出た数値が後から調べたらそのままだった、といった経験があるだろう。少なくとも私にはいくつかはっきりとした記憶とともにある。

フォトリーディングはそれを意図的に起こるよう仕向けてある技術だ。速読前後に唱えるおまじないのようなアファメーションは潜在意識に「速読で入力した情報だぞ」と固着させる効果が確かにあるし、そこから必要な情報を抜き出す高速リーディングのおまじないも潜在意識に「あの情報を出力せよ」と呼び起こす効果がある。著者の主張する「フォトリーディング・ホールマインド・システム」は上手に潜在意識を利用しているといえる。

ただし本書の構成がまるでダメ

もっとも、残念なことに本書は章立ての構成が粗悪で、読み終わった後に「で、どうやったらフォトリーディングを試せるんだ?」となってしまう。私は読後に情報を整理するために本書のマインド・マップを2回作成したがそれでもよくわからなかった。

著者によれば、フォトリーディング・ホールマインド・システムは5つのステップからなる。

  1. 準備
  2. プレビュー
  3. フォトリーディング
  4. アクティベーション
  5. 高速リーディング

わかったようなネーミングがされているが、それぞれのステップにはさらに複数の(互いにあまり関連していない)フェイズが存在しており、すべてを通すと十数の手順となる。

私は何度か試したがついにそのシステムを理解することができなかったので、自分で勝手に3つのステップ(さらにそれぞれに3つのフェイズの計9つの手順)に整理して現在は運用している。憶測であるが、フォトリーディング・ホールマインド・システムをそのまま使っている人間は講演中のインストラクターだけではないだろうか。

いま速読をするのならフォトリーディングはオススメ

散々こきおろしたが、フォトリーディング自体は非常に実用的で満足のいくテクニックである。潜在意識を利用するスタイルであるため、他の潜在意識系のスキルであるNLPやマインド・マップと非常に相性がいい(本書でもNLPとマインド・マップについては言及されている)。

実際に試してみて運用上難しいところは自分で手直しをしてみるのはどうだろうか。

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